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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)993号 判決 1966年4月14日

上告人・附帯被上告人

三省薬品株式会社破産管財人

吉永多賀誠

被上告人・附帯上告人

森下製薬株式会社

右代表者

森下日出雄

右訴訟代理人

伊藤利夫

主文

原判決第二項を次のとおり変更する。

第一審被告は第一審原告に対し金二六〇、八一二円三五銭及びこれに対する昭和三〇年五月一日より完済に至るまで年六分の割による金員の支払をせよ。

右変更部分を除くその余の本件上告を棄却する。

本件附帯上告を棄却する。

訴訟費用は第一、二審及び当審を通じてこれを二分し、その一を第一審原告の負担とし、その一を第一審被告の負担とする。

理由

昭和三八年(オ)第九九三号事件の上告人の上告理由第一点について。

被上告人が先取特権を有する物件(自社製薬品)を被担保債権の代物弁済として取得したことが、破産債権者を害する行為に該当しない旨の原判決の判断は正当であつて、破産法の解釈適用を誤つた違法は認められない。論旨は、独自の見解であつて、採用できない。

同第二点について。

原判決は、原判決記載第二物件についての破産会社三省薬品株式会社と日光商事株式会社間の所論売買契約が合意解除されていた事実を認定しているのであるから、原判決には所論違法は認められない。論旨は原判決の認定に副わない事実を前提として原判決を非難するものであつて、採用できない。

同第三点について。

破産法上の否認権行使に因る原状回復義務は、破産財団をして否認された行為がなかつた原状に回復せしめ、よつて破産財団が右行為によつて受けた損害を填補することを目的とするものであるから、否認された行為が商人間の取引によりなされた代物弁済であり、かつ右否認により破産財団に返還さるべき物品がすでに原状回復義務者の手中に存しない場合には、返還義務者は右代物弁済の目的物に代わる価格と、破産者又は破産財団が代物弁済によりこれが利用の機会を失い或いは返還義務者をしてこれを無償で使用せしめざるを得なかつたため当然被つたと認めらるべき法定利息とを返還すべきものと解すべく、特に反証のない限り、右代物弁済の目的物に代わる価格は商行為に利用されうべかりしものと認められるから、その利率は年六分とするを相当とする(昭和三三年(オ)第四四五号同三六年一〇月六日最高裁判所第二小法廷判決・裁判集民事五五号一三頁、昭和三六年(オ)第一〇九五号、第一〇九六号同四〇年四月二二日同第一小法廷判決・民集一九巻三号六八九頁参照)。

原審の確定した事実によれば、三省薬品株式会社は昭和三〇年一月一七日頃支払を停止し、同月二五日被告会社より破産の申立を受け、翌三一年五月二二日破産宣告を受けたものであるところ、被告会社は右破産会社社に対し多額の売掛代金債権を有していたので、その回収のため昭和三〇年一月二一日原判決添付別紙第一物件目録記載の物件を破産会社より搬出してこれを引き取つたうえ、同年五月一日破産会社との間に、右物件を合計三〇万円と評価し破産会社が被告会社に負担する掛代金債務七、二四四、二一〇円の中三〇万円に対する代物弁済とし、同日その所有権を被告会社に移転することを約したこと、並びに右物件は既に被告会社の手中に存しないというのである。原判決は、右認定事実により、原判示第一物件目録記載の(3)、(14)、(26)ないし(280)の物件による代物弁済は破産法七二条一号により否認さるべきものであると判断し、その価格償還額は合計二六〇、八一三円三五銭と認定したうえ、右価格償還額の利息については、否認権は法定の原因に基づく形成権で、その行使に基づく返還義務は法定義務と解すべきであり、従つてその否認されたる行為が商行為であると否とを問わず、否認の結果返還さるべき金員に対する利息は一率に民事法定利率たる年五分の割合によるのが相当であると判示したことは、原判文上明らかである。

しからば、右利息に関する原審の判断は、前記裁判所の説示に照らして法解釈を誤りたるものであつ破棄は免れず、この点につき論旨は理由がある。

同第四点について。

被告が動産売買の先取特権を有する原判示物件を、被担保債権額(売買代金額)と同額に評価して破産会社が被告に代物弁済に供した行為が、破産債権者を害する行為にあたらない旨の原判決の判断は、売買当時に比し代物弁済当時において該物件の価格が増加していたことは認められない旨の原判決の確定した事実関係の下においては、正当である。破産債権者を害する行為とは、破産債権者の共同担保を減損させる行為であるところ、もともと前示物件は破産債権者の共同担保ではなかつたものであり、右代物弁済により被告の債務は消滅に帰したからである。所論建物の賃貸人の先取特権は、賃貸人がその建物に備え付けた動産の上のみに存するものであり(民法三一三条二項)、また当時破産会社が租税債務を負担していた事実は原審で主張のない事項であるから、論旨は採用するに値しない。

昭和三八年(オ)第九九四号事件の附帯上告代理人伊藤利夫の上告理由第一点について。

本件否認を認められた他社製薬品の価格、及び該薬品を般越竜に引き渡したことについての原判決の各事実認定は、その挙示する証拠関係に照らして首肯できないことはなく、原判決には所論違法は認められない。所論は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用できない。

同第二点について。

一部敗訴の場合における当事者の負担すべき訴訟費用は、民訴法九二条により裁判所の自由裁量に委されているのであつて、請求額と認容額の比率のみによつて定めるものとは限らないと解するを相当とする。されば、原判決の訴訟費用負担を命じた判断には所論違法は認められず、論旨は採用できない。

よつて、昭和三八年(オ)第九九三号事件上告人の上告理由第三点について前記のとおり原判決を破棄すべきところ、本件は当裁判所において裁判をなすに熟すると認められるから、民訴法四〇八条に従い破棄自判し、その余の部分及び昭和三八年(オ)第九九四号の附帯上告については同法四〇一条に従い上告及び附帯上告を棄却すべく、訴訟費用について同法九六条、八九条、九二条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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